美しい男だった。

 

同姓相手にそれは無いだろうと自分でも思うが、男を思い浮かべて真っ先に来るのはそれだった。

別に女性的だった訳ではない。むしろ柔和な顔立ちでいながら、雄だと強烈に意識させる不思議な造作をしていて(もちろんそれは男から滲み出すどうしようもない殺気と闘気も影響していたが!)、女が鼻を鳴らしていくらでもすり寄ってくる。そんな男性的に整った容姿の男だったが、造作どうこうよりも、戦う姿が美しい男で、スクアーロはいつだって見惚れた。

静かな足運び、剣を握った腕の一降りさえも、完成されて無駄な動き一つ無く、どこまでもどこまでも優雅な戦い方ををする。まだ荒削りで粗暴な自分の剣とは違ったその美しさに目にすればいつだって陶然とし、その男を殺したくて殺したくて全身がざわめく。

 

そんな風に美しい男だった。

 

己を折らず、ただあるがままに望みのままに生きること。そのために己よりも上位にある存在を倒し、挫き、最強であること。最強でなければならないこと。それを本能で知っていたスクアーロは、そんなもうどうしようもない、自身に刻み込まれた衝動であり、彼が傲慢と名付けられた由縁である自我そのもの故に未だ力量が足りないと理解していても男に牙をむくの止められなかった。そんな愚かなスクアーロを、男は仕方ないと幼子にするように忍びやかに笑って相手をしていた。

ザンザスに己を全てをくれてやると決める前のことだ。一生誰にも、特に己に僅かだがその感情をむけるザンザスには言うつもりはないが、過去を振り返るたび、恋をしていたのだという認識をスクアーロは確固たるものにしていく。

ザンザスと違って、スクアーロがザンザスに恋情を抱いたことは一度もなく、これからもないだろう。

スクアーロは過去のあの日から、これからの生涯の全てをあの哀しい憤怒に焼け焦がされる男に捧げ、ただひたすらに己という存在全てでもって愛していくだろうが、向けるのはただどうしようもない愛しさであり、それは恋ではなかった。恋ではないのだ。

今更どんな感情も、どんな存在も入り込む隙間もないほどスクアーロはザンザスを愛しているから、そう。

そういった意味では、あれは一生に一度の恋だった。

 

スクアーロの初めての男であり、師であり、養い親であった血の繋がった叔父の名は、テュールといった。

 

 

剣帝と呼ばれた男